樹木と季節 変化追う
気候変動把握の指標に
茨城大
県内大学で行われているSDGsの取り組みを、学生が記事で紹介する。初回は茨城大(水戸市)の「フェノロジープロジェクト」。季節で変化する学内の樹木の状態を観測している。
フェノロジー
季節の移り変わりに伴う生物の状態や行動の変化を、フェノロジー(生物季節)という。茨城大フェノロジープロジェクトでは、水戸キャンパス(同市)内のイチョウやサルスベリなどの12種類の樹木を対象として、フェノロジー観測を行っている。具体的には開花や紅葉といった現象を確認したら、その月日を記録し、全国で行われている観測ネットワークに報告する。
観測の目的は、生物に及ぼす気象の影響を知るとともに、季節の遅れ進みなどの気象状況の推移を知ることだ。季節の移り変わりの速さや気候変動の傾向の把握にも活用されている。例えば、50年間という期間で見ると、気象庁が観測を続けている水戸の桜や梅の開花時期は、少しずつ早まっていることが確認できる。
1953年以降、同庁では57種の動植物を対象に、全国各地でフェノロジーを観測してきた。しかし同庁は2020年、都市部における動物観察の困難さや資金不足を理由に、観測対象を植物6種に減らすことを発表した。その後、国立環境研究所気候変動適応センター(つくば市)を事務局として、気象庁の取り組みを引き継ぎ、発展させる取り組みが始まった。職業として研究をしていない市民が中心となって観測体制を構築・維持していく手法の模索、さらに全国的な観測ネットワークの構築、データ活用の仕組みづくりを目指している。
茨城大では当初、植物を研究する理工学研究科の及川真平准教授が個人の活動として始めたが、その後有志の学生たちも参加し、23年春から茨城大フェノロジープロジェクトとして発足した。
マップで周知
プロジェクトでは、学内でのフェノロジー観測のほかにも、フェノロジーについて周囲の人々に知ってもらうことを目的とした活動を行っている。昨年秋に開催された文化祭では、観測している樹木の食品ロスへ1万食様子を夏と秋で比較するキャンパスマップの作成や、学内に自生する植物の展示、観測木を巡るスタンプラリーを行った。スタンプラリーの景品として手作りしたしおりには、学内のサザンカの葉と、自生しているシロツメクサなどを用いている。それに加え、観測木を紹介するためのプレートを、昨年から設置している。また新たな試みとして、7月27日予定のオープンキャンパスでは、来場者と共に学内の観測スポットを巡るツアーも開く。
23年から活動を始めたプロジェクトだが、すでに成果を上げつつある。学内11種類の樹木について、1年分の観測データを得られたことや、樹木ごとの観測手法を確立させたことだ。この1年間の活動経験を基に、フェノロジープロジェクトを本県の一大観測拠点として発展させていくことが今後の課題である。具体的には、現在使用している観測マニュアルを、茨城大で使いやすいようアップデートしていき、より精度の高い観測に努めていく。
プロジェクト代表の理学部3年、堀萌江子さん(20)は、「プロジェクトメンバーの観測だけでなく、協力してくださる教員や職員の方をもっと増やして、大学全体でフェノロジー観測に取り組んでいきたい」と語る。フェノロジープロジェクトは、地域社会において環境問題に取り組むきっかけとなる存在だ。今後もさらに成果を上げ、持続可能な社会の実現に注力していく。(理学部2年・小山祥子)