食品ロス減へ1万食
規格外イチゴでパスタ

水戸農高生が奮闘

 おにぎり1個。これは日本の年間食品ロス約472万㌧(2022年度農林水産省など推計)を国民1人当たりに換算した場合、毎日捨てていることになる食品の量だ。食品ロスはSDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」に含まれ、地球規模で取り組むべき課題と言える。県立水戸農業高(那珂市)の農業研究部は、地元の農家や飲食店と連携して、市場に出回らない規格外イチゴを練り込んだ生パスタを開発、1万食超を販売し、食品ロス削減に取り組む。

大会最優秀賞に

 生徒が開発したのは、イチゴのペーストを練り込んだ「ストロベリー生パスタ」。太麺「タリアテッレ」と細麺「スパゲティ」の2種類で、袋を開けると、イチゴの香りが広がる。もちもちの麺に種のつぶつぶ食感が歯触りに残る。部長で3年生の宮本泉希(みずき)さん(17)は「トマトやクリームのソースが合う」と勧める。

商業施設で実施した「ストロベリー生パスタ」の販売会=水戸市内原

 取り組みは今年で4年目を迎え、現在は1年生3人、2年生1人、3年生4人の計8人で活動する。これまで1万食以上を売り上げ、昨年度開かれた高校生のSDGsアクションアイデアコンテスト「SDGs QUESTみらい甲子園県大会」(同実行委主催、茨城新聞社共催)では最優秀賞に輝いた。

廃棄1日50キロ

 活動のきっかけは農業研修だった。2021年1月に当時の部員が鉾田市の梅原農園を訪れ、収穫、選別作業を体験した。傷や熟れ過ぎ、形のふぞろいなどが原因で、味は規格品と変わらないイチゴが、多い時で1日50㌔も廃棄されていると知った。

 「将来農作物を作る側になる自分たちが何かできないか」。生徒たちは規格外イチゴの活用方法を考え始めた。当初はジャムやクッキーなどを考えたが、それらの商品は既に販売されていて、商品化には至らなかった。買ってもらえなければ食品ロス削減につながらない。意外性があり、家族で日常的に食べてもらえるものをと、生パスタを思いついた。そこで、同校の外部講師を務める生パスタ専門店「パスタイオ・ジェノヴァ」の小原健二オーナーシェフ(54)に相談した。

 約3カ月かけて、商品は21年4月に完成。同月に那珂市鴻巣で開かれたマルシェで初めて販売した。その後、県内の百貨店やイベントでの販売を重ねて、東京都内の百貨店やアンテナショップなどにも出店した。購入者に手作りのリーフレットを配布するなど、多くの人に食品ロスの取り組みについて知ってもらう工夫をしている。

規格外イチゴのペーストを使った生パスタと洋菓子

 パスタに練り込むイチゴは、生徒たちが丁寧にヘタを取って、ペースト状に加工している。今後、「農福連携」の取り組みにつなげるために、地元の障害者施設の利用者とワークショップを行い、ペースト作りを体験してもらっている。

活動広めたい

 農業研究部顧問の鹿島正浩教諭(48)は「エネルギーの収支を計算してみたい」と今後を見通す。パスタの加工では、材料の運搬や調理、包装などで資源やエネルギーを消費する。イチゴをそのまま廃棄する場合と比較して本当にエコと言えるのか。「より環境のためになる方法はないのか、考える必要がある」と指摘する。

 イベント出店を中心とした不定期販売であることから、購入の機会が限られることも課題の一つ。従来の対面販売に加え、オンライン販売も検討している。3年生の松本紗葵(さき)さん(18)は「捨てられてしまうイチゴの存在をもっと多くの人に知ってほしい。専用のソースなど新しい商品も作ってみたい」と展望を語った。


廃棄減「うれしい」

鉾田・梅原農園

 梅原農園(鉾田市常磐)は、生パスタの原材料用として、年間約100㌔のイチゴを提供している。出荷用のイチゴを収穫した後、毎年5月初頭に農業研究部の生徒が農園を訪れ、市場に出回らない規格外イチゴを引き取る。生徒はイチゴを冷凍し、販売会のたびに少量ずつ解凍、パスタ店に持ち込む。

 園主の梅原慎二さん(51)によると、規格外を理由に廃棄するイチゴの量は多い時で1日約50㌔。1日の総収量の約5分の1に当たる。

イチゴ畑で笑顔を見せる農家の梅原慎二さん=鉾田市常磐

 イチゴが規格外になる理由は傷や熟れ過ぎ、形のふぞろいなどで、中でも害虫による変色は影響が大きいという。体長数ミリの昆虫「アザミウマ」がイチゴの花粉を食べると、果実が黄ばんで売れなくなる。受粉用にミツバチを飼育しており、むやみに農薬を使うことはできず、駆除は容易ではない。

傷や熟れ過ぎなどの理由で市場に出回らないイチゴ

 規格外でも味は変わらない。梅原さんはその甘さに自信を持っており、「イチゴの廃棄を減らしたいという思いは元々あった」。だが、「規格外のイチゴを持ち込む場所がなく、農家の力だけでは難しい」と感じていた。

 生パスタの開発により、イチゴの廃棄量だけでなく、廃棄する手間も減った。

 梅原さんは「これまで捨てるしかなかったイチゴがパスタに生まれ変わり、多くの人に食べてもらえることがうれしい」と話した。


素材の風味生かす技

パスタ専門店

 「ストロベリー生パスタ」は、小麦粉、イチゴ、オリーブオイル、塩、酒精から作る。太麺「タリアテッレ」と細麺「スパゲティ」の2種類で、いずれも小麦粉4㌔に対してイチゴが1.5㌔練り込まれ、イチゴの風味をふんだんに味わえる。

 製麺を担当するのは、ひたちなか市と那珂市に店舗を構える生パスタ専門店「パスタイオ・ジェノヴァ」。小原健二オーナーシェフ(54)は「イチゴの香りを残すため、普段は使う卵を入れていない」と話す。着色料やシロップを加えず、自然な色味と味わいにこだわった。

トマトソースで味付けされた「ストロベリー生パスタ」の細麺=那珂市鴻巣

 昨年からは、パスタだけでなくスペイン発祥の洋菓子「カタラーナ」にも規格外イチゴのペーストを使い、販売している。

 小原さんは、生徒たちの取り組みに「刺激を受けた」と語る。自分の足で農場に行って食材を仕入れ、「食品ロス削減に取り組まなければ」と感じたという。

 店ではストロベリー生パスタの他にも、規格外のトマトで作ったパスタソースなど、市場に出回らない野菜や果物を使ったメニューの開発、提供に取り組む。

 パスタは現在、イベントなどで不定期に販売している。小原さんは「いずれはスーパーなどで継続的に販売できるようになればいい。もっと多くの人に知ってもらえたら」と今後を見据えている。