9月の「いばらきSDGsプロジェクト」は、県内大学で行われているSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みを、学生自身が伝える「Campusリポート」の第3回。筑波大(つくば市)の性的少数者に関する活動に触れる。「もっと知りたい!」では関連の書籍を紹介する。
皆が過ごしやすい場に
ガイドラインや交流拠点
筑波大
筑波大(つくば市)は、学生や教職員の多様な在り方を尊重する体制づくりを進めている。性的少数者に関するガイドラインの策定や、安心して過ごすことができる場の開設などに取り組んできた。
全学対象に策定
誰もが過ごしやすいキャンパス環境を目指し、筑波大は2017年3月、性的少数者に関するガイドラインを策定した。少数者を差別しない▽自己決定を尊重する▽修学・服務の妨げを取り除く―の三つを基本理念に掲げる。同大によると、教職員を含めた全学対象の策定は全国で初めてで、同様の取り組みが各地で進む契機となった。ガイドライン作りを主導した同大人間系の河野禎之助教は「一人一人が異なるジェンダーやセクシュアリティーを有し、多様性を構成する一員であることを認識する必要がある」と指摘する。ガイドラインには基本理念に基づく対応方針も示されている。自認する性に基づく通称名を所定の手続きを経て使用できる▽体育の授業や定期健康診断で、必要に応じて事前に個別相談できる―などだ。
20年4月には教職員の福利厚生に関する支援制度の対象を見直し、法律婚、事実婚、性的少数者のカップルを問わず同じ支援が受けられるようにした。
河野助教と共に作成に携わった同大人文社会系の土井裕人助教は「ガイドラインが当事者のニーズを反映しているのかを常に気に掛け、見直していくことが大切だ」と話す。
週2回、匿名可
性的少数者の相談窓口となっているヒューマンエンパワーメント推進局(BHE)はセーファースペース 「KiteKite(きてきて)」を昨年7月から定期的に開設している。
セーファースペースは、ジェンダーやセクシュアリティーについて全ての人がより安全に話し合える場所のこと。「きてきて」は会話の内容を他の場所で話さない、他者の発言を否定する言動をしないなどのルー ルを守れば、全ての筑波大関係者が利用できる。
BHEの教員や学生スタッフがファシリテーターとして参加し、来場者は匿名で交流できる。会話に加わらず、用意された机で読書や作業をすることも可能 だ。当初は月1、2回の開設だったが、現在は週2回に増えている。
イベントを企画
7月上旬には、来場者が 「クィア」に関わる音楽を聴き、語り合うイベントをBHEの学生スタッフが企画した。「クィア」とはLGBTに限らない性的少数者を包括する概念だ。担当した国際総合学類2年の野口凜々子さんは「若者に身近な音楽から性について考えてもらおうと企画した。参加者の中には他のクィア音楽を教えてくれる人もいた。今後は、文学などにもジャンルを広げて開催したい」と笑顔を見せた。
SDGsに詳しい日本総合研究所の村上芽(めぐむ)チーフスペシャリストは「大学における性的少数者支援は『質の高い教育をみんなに』『人や国の不平等をなくそう』などの目標実現につながる。性的少数者を含めて『ジェンダー平等』を捉えれば、多様性に富んだ豊かな社会になる」と語る。
ただ、SDGsの目標やターゲットには、性的少数者やLGBTという単語は含まれていない。SDGs策定の交渉過程を知る外務省関係者は「文化的、宗教的な背景もあり、同性愛を 違法とする国が世界にはいまだに多い。意見の一致が重要とされる中で、性的少数者保護は議題に上らなかった」と話す。
筑波大の性的少数者支援はSDGsが採択された15年以前から始まっており、SDGsの実現のために実施しているわけではない。「筑波大の性的少数者支援は、当事者をラベリング せずに支援することが原則だ。SDGsと関連付けて支援するのでは、当事者本人も、必ずしもうれしくないのではないか」と土井助教は語る。
SDGsは「誰一人取り残さない」を基本理念に掲げる。そうであれば、SDGsを人類が達成すべき理想と奉るのではなく、可視化されていない少数者がいないかどうかを達成の過程 で絶えず確認することが求められる。性的少数者とどのように向き合うかを考える中で、そのことが見えてくるのではないだろうか。 (比較文化学類1年・兼平麻央、総合学域群第1類1年・橋本奈央、社会学類3年・川上真生)
LGBTQ+に関する筑波大学の基本理念
●少数者を差別しません
●自己決定を尊重します
●修学・服務の妨げを取り除きます
※正式名称は「筑波大学におけるLGBTQ+の性自認及び性的指向を理由とした差別の禁止及び解消に関する基本理念」