中小企業支援に注力

 物価高騰や人手不足に苦しむ中小企業を支援するため、県は本年度、賃上げを実施した事業者への直接的な支援や、価格転嫁に向けた伴走支援に乗り出した。人口減少に伴い働き手が減る中、持続的な賃上げで労働者の処遇改善を図ることで、人手確保につなげる。「賃上げ」と「価格転嫁」の両輪で、より効果的に県内経済の好循環を目指す考えだ。


■いばらき賃上げ支援金 大幅賃上げに直接補助


 「利益を削ってでも、人件費を捻出するしかない」

 土浦市で機械部品加工を手がける飯村精機製作所。飯村智社長(50)は、物価や燃料が高騰する中、社員の生活を守るため日々汗を流す。

 エンジン部品を製造し、トラックや農機具メーカーに納める。取引先との交渉で、一部では価格転嫁が実現したが、依然として進展は鈍い。

 役員やパートを含め、社員数は18人。人手不足やコスト増加が飯村社長に重くのしかかる。「買うものの価格は上がっても、出す製品の価格は上がらない」と現状を嘆く。

 県は、本県の最低賃金が経済実態と見合っていない点を指摘する。昨年10月、本県の最低賃金は52円増の1005円に引き上げられた。一方で、経済実態を踏まえた最低賃金は1040円程度が相当とし、「実態に見合った賃上げは、県内経済の好循環につながる」と県の担当者は話す。

 中小企業の苦境を踏まえ、県は物価上昇を上回る大幅な賃上げに対し、直接的な支援に乗り出した。

 1時間当たりの賃金を1010円以下から35円以上引き上げた県内事業者を対象に、1事業所当たり最大50万円を補助する。支給額は正規雇用者が1人当たり5万円、非正規雇用者が同3万円。県の担当者は「まず賃上げの原資を確保することで、持続的な賃上げの足掛かりにしてもらえたら」と狙いを話す。

 申請や問い合わせは、いばらき賃上げ支援事業事務局コールセンター(電話)050(3385)8075。申請は来年1月30日まで。

自動車部品の仕上げ作業を見つめる飯村精機製作所の飯村智社長(左)=土浦市本郷
「いばらき賃上げ支援金」申請特設ページへのQRコード

■相談窓口を設置 伴走型で価格転嫁図る 診断士派遣、交渉を助言


 持続的な賃上げ実現のため、県は適切な価格転嫁に取り組む中小企業を伴走型で支援している。5月に価格転嫁に関する専門の相談窓口を開設した。適正な取引価格の算出や、交渉の進め方などについて中小企業診断士がアドバイスする。
 電話やウェブでの相談に加え、希望する事業者には最大3回まで無料で中小企業診断士を派遣する。

 民間信用調査会社、帝国データバンクの2025年2月調査によると、コスト上昇分を価格に反映した割合を示す「価格転嫁率」は、全国平均が40.6%なのに対し、本県は36.1%と下回った。特に建設や運輸・倉庫は2割程度にとどまった。

 適正な価格転嫁を促進することで、中小企業が賃上げしやすい機運を醸成する。大竹真貴産業戦略部長は「1社でも1%でも多く価格転嫁が実現できるよう、県としてサポートしたい」と話す。

 これまでに「価格交渉がうまく進まない」といった相談が数件寄せられた。今後は金融機関と連携し、各企業に周知を図る。今月末にも行員が聞き取り調査を実施し、必要に応じて相談窓口につなげる。

 県中小企業課の担当者は「相談が来るのを待つのではなく、プッシュ型で進める」と強調。県内企業約1万社に啓発チラシを配布したり、価格交渉促進月間に合わせてPRしたりと、価格転嫁の重要性を働きかける。

 問い合わせはウェブや(電)029(233)6737。期間は来年3月31日まで。このほか県は、企業間の適正な取引関係を促進する「パートナーシップ構築宣言」の登録サポートも行っている。

相談窓口の看板を設置する大竹真貴産業戦略部長(右)と常陽産業研究所の大森範久社長=5月1日、水戸市三の丸(常陽銀行提供)
相談窓口の看板を設置する大竹真貴産業戦略部長(右)と常陽産業研究所の大森範久社長=5月1日、水戸市三の丸(常陽銀行提供)

■いばらき業務改善奨励金 設備投資で生産性向上 労働時間短縮に手応え


 中小企業の設備投資を支援し、生産性向上を図るため、県は「いばらき業務改善奨励金」の活用を推進する。事業場内の最低賃金を1040円以上に引き上げた上、設備投資を行う事業者を対象に、国の業務改善助成金の自己負担分について県が2分の1を支援する。

 県労働政策課によると、制度は2024年1月に始まり、これまで延べ119件、約3千万円分を助成した。今年度は来年1月30日まで申請を受け付ける。

 制度を利用した事業者からは大きな効果を実感する声が聞かれた。

 段ボール製造の篠﨑紙器製作所(土浦市)は、社員22人の時給を90円増の1043円に引き上げた。助成金を活用し、作業中に出る段ボールの切れ端を回収する集じん機を導入。従来は1日約1トン分を、作業後に人力で集めて回収していた。

 機械の導入で、従業員の残業時間が約8割短縮されたほか、生産量が25%増加するなどあらゆる場面で効果を実感。同社の篠﨑一浩社長は「機械操作する従業員が生産に集中できる。体力の負荷も減らせた」と手応えを話した。

助成金を活用して導入した集じん機の一部=土浦市虫掛