木造住宅の耐震化促進

 2024年元日に発生し、甚大な被害をもたらした能登半島地震。特に旧耐震基準で建てられた木造住宅の倒壊が目立った。本県の旧耐震基準の木造住宅は推計で約23万棟あるが、このうち約10万1千棟が未対策のままだ。今は耐震診断や耐震工事の補助制度が充実化され、従来よりも費用を抑えられる工法もある。県は「まずは耐震診断を受けて」と呼び掛けている。

耐震診断で床下をチェックする耐震診断士=2024年11月20日、水戸市内

診断や改修に補助 イベント、動画で啓発も

 1981年5月以前に建てられた旧耐震基準の木造住宅を対象に、県は本年度、県民に耐震診断や耐震化を促す啓発や取り組みを加速させている。

 市町村と連携し、固定資産税の納税通知書にチラシを同封。診断や改修に補助があり、耐震基準を満たすと税の減額や控除が受けられる利点を紹介する。自治体によっては、ダイレクトメールを郵送したり戸別訪問で直接、住民に診断を勧めたりもしている。

 県主催の体験型の防災イベント「いばらき学ぼうさい」では、柱や梁(はり)に見立てたストローで家を作るコーナーを設置している。来場者は工作を楽しみながら、耐震補強の基本となる「筋交い」を柱と柱の間に斜めに入れることで家の強度が増すことを学べる。

 県は耐震診断の補助事業として、国や市町村と共に費用の一部を負担している。補助を活用すれば、ほぼ無料。自己負担は自治体ごとに異なるが、最大でも5千円で診断できる。

 能登半島地震で建物被害の大きかった地域は、倒壊や崩壊した住宅の9割以上が旧耐震基準だった。内閣府の本年度の防災白書によると、倒壊した建物の下敷きが原因とみられる犠牲者が全体の約6割に上った。

 こうした事実を受け、耐震診断に関心を寄せる県民は増えている。2024年度に実施した診断件数は255件で、前年度の2.6倍に拡大。県はさらなる耐震診断の増加に対応するため、本年度当初予算で診断の補助事業に7800万円を計上した。

 耐震化の必要性については、演劇部の高校生が熱演しているドラマ仕立ての広報動画をユーチューブで配信。「あなたの家は大丈夫? 木造住宅の耐震化」の題名で、県民に分かりやすく説明している。

県が固定資産税の納税通知書に同封したチラシ
固定資産税の納税通知書に同封したチラシの例

低コスト工法、普及目指す 費用や工期半減 住みながら工事

 大地震から住民の命と財産を守る耐震改修。課題は改修費や工期、住民の高齢化だ。県は最大115万円の費用補助とともに、改修費を減らせる「低コスト工法」や「耐震シェルター」を紹介。将来処分する自宅を担保に工事費が借りられる融資制度と合わせ、住民に耐震化を促している。

 耐震診断は「県木造住宅耐震診断士」に認定された建築士が基礎や床下などの劣化を確認し、耐震性を評価する。評点が1.0に満たない木造住宅は地震で倒壊の恐れがあり、耐震改修の検討が勧められる。

 耐震改修は通常、壁をはがして柱や梁(はり)の間に筋交いという補強材を斜めに入れる。日本建築防災協会によると、工事費は2020年のデータでは100~150万円が最も多く、工期は2カ月程度かかる。

 改修費は国や県、市町村から最大115万円が補助される。だが、対象住宅の住民の多くは高齢者で「この家は私の代で終わり。改修はお金の無駄」と考える人も少なくない。「工事中の音や一時的な引っ越しが嫌」と話す人もいる。

 こうした懸念を和らげるため、県は壁や床を壊さず、既存の壁などの上から補強できる「低コスト工法」の普及を目指す。費用や工期は従来の半分程度に抑えられ、住みながら工事が可能になる。

 リビングや寝室など住宅の一部を守る「耐震シェルター」を設置する方法もある。室内に強度の高い箱形の部屋を入れることで住宅が倒壊しても身を守れる。

 改修費用の工面には「リバースモーゲージ」を利用する方法もある。自宅を担保に資金を借り、空き家となった時に処分し一括返済することもできる金融商品で、毎月の負担は利息分のみ。住宅金融支援機構の商品は、利息分も国の支援により無利子か低利子となる。


診断士の育成に注力 知識や技術習得へ講習会

 耐震診断のニーズの高まりを受け、県は耐震診断士の養成強化に乗り出した。診断に必要な知識や技術が習得できる講習会を年2回開催し、診断士の増員を図る。耐震診断を受けた住民に耐震改修まで決断してもらうため、低コスト工法を理解した診断士の育成にも力を入れる。

 講習会は1級、2級、木造の各資格を持つ建築士が対象。耐震診断は通常の建築士の業務と異なるため、講習では住宅の耐震性を診断する評点の計算法や現地調査の仕方などを学ぶ。受講すると「県木造住宅耐震診断士」に認定される。

 県建築指導課によると、県内の耐震診断士は2024年度末現在で429人。同課は耐震診断が急増していることから「診断士を増やして需要に対応できる体制を整えたい」とする。

 昨年度からは、診断士の一層の技術力向上を図るため、低コスト工法の講習会も始めた。診断で耐震不足と判定した際、その場で改修の手法を住民に説明し、改修への関心と意欲の高揚を狙う。

県が昨年度から開催を始めた耐震診断士向けの「低コスト工法講習会」=3月21日、水戸市内

動画「あなたの家は大丈夫? 木造住宅の耐震化」のQRコード