~来たるべき大規模地震に備えて~
1923(大正12)年9月1日に発生した関東大震災から今年で100年の節目を迎えるのに合わせ、「関東大震災100年リレーシンポジウム茨城」が7月28 日、土浦市東真鍋町のクラフトシビックホール土浦で開かれ、今後予想される首都直下地震などの大規模地震への備えについて考えた。基調講演やパネルディスカッションが行われ、登壇者らは東日本大震災などの教訓を踏まえた取り組みを紹介するとともに、「大規模地震は今後確実に起こる」「最後に命を守るのは自助、共助」などと呼び掛けた。
(シンポジウム当日の様子はこちらからご覧ください)
基調講演
南関東地域で想定されるM7及びM8クラスの地震について

防災科学技術研究所マルチハザードリスク評価研究部門長 藤原広行氏
地盤の状況が被害に影響
関東大震災をもたらした1923年の関東地震でとても強く揺れた地域は神奈川県と房総半島南部が中心で、ここでまず大きな被害が出ました。ただ関東大震災と言えば、東京での大火災のイメージが強く、実際に死者のかなりの部分は震源域からやや離れた東京から埼玉県にかけた地域で出ています。現在の地盤の揺れやすさマップで見ると、東京から埼玉県の辺りで大きな被害が出たところは地盤が軟弱で揺れやすい地域でした。地震の揺れは、震源域以外にその揺れを受け止める地域の地盤の状況にも非常に大きな影響を受けることが分かります。
茨城県内では、関東地震以前の1895(明治28)年に霞ケ浦付近の真下を震源とするマグニチュード(M)7・2の大地震がありました。内閣府が今後想定している茨城県南部地震(M7・3)とよく似ています。茨城県は有感地震の数が地球上でも特に多い地域ですが、小さな地震が数多く起こっても、大きな地震のエネルギーはほとんど解放されません。いずれ再び同じようなM7クラスの地震が起こる日が来るのではないでしょうか。それがいつかは分かりませんが、そのための備えが必要です。
過去の災害の教訓を踏まえ、関東大震災では火災、阪神・淡路大震災では強い揺れ、東日本大震災では津波と、痛い目に遭ったものについてその後、着実に備えが進められてきました。
その中で、私はまだ残っているものの一つに地盤の災害があると考えています。家そのものよりも足元の地盤が崩れる、あるいは変形、液状化する。特に南関東地域のような地盤が軟弱な平野部では気を付けなければならない災害です。皆さんがお住まいの地域がどういう地盤なのかをぜひ知っていただきたいです。
パネルディスカッション
大規模地震への備えと首都直下地震での茨城の役割
〇パネリスト(左から)

- 茨城県土木部長 田村央氏
- 土浦市長 安藤真理子氏
- 総合病院土浦協同病院救命救急センター長 遠藤彰氏
- 国土交通省関東地方整備局常陸河川国道事務所長 佐近裕之氏
〇コーディネーター
防災科学技術研究所マルチハザードリスク評価研究部門長 藤原広行氏
防災・減災の取り組み
藤原 大規模地震にどのように備えていくか。それぞれのお立場からお話しください。
田村 三つの取り組みを紹介します。一つ目は道路インフラの日常管理と老朽化対策、二つ目は緊急輸送道路の整備・確保等で、機能の維持や強化に向け、既存の橋梁の耐震化や無電柱化の推進、沿道の建築物の耐震化に取り組んでいます。三つ目は地域の守り手としての建設業の担い手の確保・育成です。
佐近 災害時には「自助・共助・公助」が重要です。関東大震災当時は国や都道府県の力がまだ弱く、自助、共助で多くの命が救われたと昔の資料にありました。最後に命を救うのは地域の皆さまの自助、共助、そして医療です。公助の部分として国では、大規模災害時の広域の支援ネットワークの確立に向け、道の駅の防災拠点化を図っています。
安藤 土浦市では公共施設の耐震化をはじめとしたハード面の整備と併せて、職員研修や防災訓練などを定期的に行っています。地域防災力の強化とともに、他自治体や民間の事業者との災害協定の締結も推進しています。市としてはとにかく被害を最小限にとどめるため、考えられることは何でもやるというスタンスで、日々、防災・減災に取り組んでいます。
遠藤 個人レベルではまず自身の身を守ること。災害医療では救助者も自身の安全を最優先すべきと教育されています。病院レベルでは、首都直下地震においては、おそらくほかのブロックのDMAT(災害派医療チーム)が支援に入ることになると思います。そういった支援と院内の災害対策室との懸け橋となっ働けるよう備えをしています。
藤原 首都直下地震などが起こった場合、具体的にどのようなことが考えられますか。
安藤 茨城県地震被害想定調査によると、茨城県南部地震(マグニチュード7・3)が発生した場合、土浦市は建物被害が最大で約3千棟、人的被害が最大で約400名と想定されています。ただ自然現象は想定を超えて襲ってきます。東日本大震災では本市でも想定を超える広範囲の液状化が発生しました。この経験からあらゆる事態を想定しながら、減災に努めていきます。
遠藤 被災者の受け入れ想定について茨城県南部地震を参考にすると、冬の深夜では推定重症者数は320名で、県南、県西地域の計8カ所の災害拠点病院で均等に分散されると仮定しても1病院当たり40名、多いところで50名以上の重傷者が発災から3日間に搬送されると予測されます。ほとんど満床の状態が続く中で、どこで誰が対応するのか。気合と根性だけでは解決できない部分もあり、常に議論しながら今後、対策を考えていきます。
藤原 首都直下地震の中でも、茨城県が主たる被災地になる場合と、被災しつつも他の支援に回らなければならない場合が想定されます。茨城県はどういう対応が今後可能か議論していきます。
安藤 人的被害ゼロを最優先に、必要な対応とされる被害状況の把握、避難所開設、適切な情報発信、被災者支援などは全てやっていく心づもりです。また、他の地域で被害が発生した場合にも、できる限りの支援をしていきます。防災の目指す数字は「被害ゼロ」だと常々考えています。そのためには、今回のシンポジウムのテーマに「連携・実践・わがこと化」とあるように、すべての方が災害を自分事と捉えることは、とても大切だと思います。
遠藤 首都直下地震が首都圏中心で起きた場合、茨城県の役割は、県内で生じた傷病者はなるべく県内で治療することです。広域搬送のための人的物的資源は限られており、主に1都3県で使用されるためです。病院の災害対応として、従来は「多数傷病者受け入れ」か「病院避難」の二者択一でしたが、現在は病院の被災状況をランク付けして、被害をカバーしながら機能を保つことを目指す考え方に変わっています。「籠城」することで病院避難を回避または遅らせることにより医療資源を節約する、もしくは時間的に分散させることを目指すという考え方で計画を進めています。
佐近 首都直下地震となると、東日本大震災の際にも取り組んだ道路啓開が第一に必要になります。首都周辺のあらゆる方向から被災地への侵入を可能とするよう、「八方向作戦」と名付けた計画を立てています。もし、茨城県内が大きな被害を受けた場合には、八方向作戦で整備してきた道路が、逆にわれわれの支援に役立てられることになります。
田村 災害対応は事前に準備した以上のことはできません。何事も事前の準備が大事です。
私から二つご紹介します。一つは協定による各団体との協働で、県は県建設業協会をはじめ34の関係団体と災害対応に係る協定を締結しています。二つ目は、他の都県への職員派遣などで、1都9県で協定を締結し、災害発生時には物資等の提供や応急対策に必要な職員の派遣等の相互支援が行える体制を構築しています。
被災の経験忘れない
藤原 東日本大震災以前の茨城県は地震による被災の経験がほとんどなく、備えが十分ではありませんでしたが、地震や津波による被災地となって県民の意識も変わってきました。本日のパネリストの方々の発言を聞いていても、茨城県でも地震への対策が着実に進み始めていると感じています。 大規模地震はめったに起こらない現象で、10年たつと記憶も薄れてきます。今回のシンポジウムのような機会を作りながら、過去の被災の経験を忘れず、次へ生かしていくことが大切です。
パネリストの皆さんから、最後に一言ずついただきます。
田村 地震は周期が長く、忘れた頃に突然やってきます。本日、会場にお越しの方は、防災の仕事に携わっている方が多いと思います。地震が起きた時に自分が何をすべきなのか、どういう指示を出すかを常に頭の片隅に置いて、私もそうですし、皆さんも行動していただきたいと思います。
安藤 阪神大震災以降、ボランティアがいろいろな地域で活動するようになり、共助が以前より根付いてきたと感じています。自助もやはり大切です。私たち行政として公助の役割は大切ですが、行政にできることには限りがあります。自助、共助の大切さを皆さんにお伝えしていくことも行政の使命と考えています。
遠藤 阪神大震災と東日本大震災、熊本地震では、医療へのニーズ活動も異なってきました。藤原先生の講演で次の大地震では地盤が問題になるのではという話もありましたが、その時々で臨機応変に対応できるよう準備を心掛けたいと思います。
佐近 大きな地震は今後、ほぼ確実に来ます。どこに来るかは分かりませんが、準備を怠らないようにする必要があります。国や県も公助の部分でできることは着実に進めていきますが、最後の最後に命を守るのは自助、共助ですし、そこで穴の抜けたところを医療によりカバーしていただけると期待しています。
(シンポジウム当日の様子はこちらからご覧ください)
共催 | 茨城新聞社 |
主催 | 国土交通省関東地方整備局常陸河川国道事務所 |
後援 | 茨城県 |
土浦市 | |
茨城県市長会 | |
茨城県町村会 | |
茨城県建設業協会 | |
茨城放送 | |
NHK 水戸放送局 |