障害の壁、なくしたい
声、手話、文字を変換
水戸工高生、装置を研究
日本の民間企業の約半数が、障害者の法定雇用率を満たしていない原因は、コミュニケーションにあると考えた。県立水戸工業高(水戸市)の工業技術部に所属する3年生、桜井慶
裕さん(17)、宍戸智春さん(18)、飯田央裕さん(17)の3人は、視覚や聴覚に障害があったり国籍が違ったりしていても、会話ができる装置を作ろうと思い立った。この構想は、高校生のアクションアイデアコンテスト「SDGs QUESTみらい甲子園」茨城県大会
で最優秀賞に選ばれ、今年2月のファイナルセレモニーで表彰された。誰もがコミュニケーションに困らない世界をつくりたい―。3人の夢は大きく膨らむ。

装置を作るきっかけは、飯田さんがテレビで見た障害者雇用のニュースだった。「コミュニケーションを円滑にできたら、もっと働きやすくなるのに」。教員のアドバイスを受けながら、やってみようと思い立ち、昨年9月ごろから動き出した。
チームを組んだのは、同じスマホゲームが好きな仲間たち。どんな相手でも会話できる、パソコンを使ったオールインワンの装置にしようと、開発を続けた。今年1月中旬、音声、手話、翻訳の大まかな機能を盛り込むことができた。
音声翻訳は、グーグルの機能を生かしたソフトを組み、11言語に対応している。翻訳する言語を選び音声を吹き込むと、対応した訳の文字と音声が流れる。大きな文字で見やすいようにしたほか、色覚異常があっても分かるよう画面を白黒にした。
手話は現状で五つの単語に対応する。カメラに向けて立てた手を横に倒すと「お願いしま
す」の文字と音声が出る。手を振ると「さようなら」、人差し指を鍵の形に曲げると「こんにちは」だ。卒業した先輩の組んだ「骨格検出によるじゃんけんプログラム」を応用し、手の形を数値化することで、何を意味しているのかをソフトが判別する。
点字は、言葉に対応して金属製の棒が上下し、紙に凹凸を付けるプリンターを製作した。
実用化にはさらなる開発が必要となるものの、実現した技術の高さに、担当教員も舌を巻く。

飯田さんは、使い道として各種窓口や道案内を想定する。「手話ができない人は、聴覚障害者との会話に筆記用具が必要となる。この装置が実現すれば、どんな場所でもバリアフリーに近づける」と話す。
桜井さんは「外国人を含めたさまざまな人が訪れる万博などのイベント会場で、この装置があれば仲良くなれる。不便の解消以上に、人と人が仲良くなるツール」と思いを語る。
プログラム開発を主に担った宍戸さんは、「目の見えない人と耳の聞こえない人の会話は困難。コミュニケーションができるようになれば、互いの壁が取り払われ、仕事もしやすくなる」と説明する。
3人は高校卒業後も、AI(人工知能)技術の研究や、データサイエンス、IoT(モノのインターネット)などを研究したいという。宍戸さんは既に、ニセ電話詐欺対策アプリに着手するなど、身近な問題を解決するツールの開発を意欲的に進めている。みらい甲子園で最優秀賞を獲得した喜びを胸に、3人は課題研究の完成や受験勉強に向かっていく。
3人の研究について、みらい甲子園のセレモニーで富田敬子実行委員長は、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に注目したことと、情報通信技術(ICT)を活用したことの2点を称賛。「工業高校の専門性を最大限に生かした、非常にアクティブなアイデアだった」と講評で述べていた。
指導に当たった山本茂男教諭は「今回の活動を通し、生徒は『自分たちが学ぶ理由』や『自身の可能性』を探究することができたと考えている。学びを追求するだけでなく、後輩たちにも伝え学び合うことで、さらなる可能性につなげていってもらいたい」と期待を寄せている。