障害者アート懸け橋に

ユーアイファクトリー(水戸)

障害福祉サービス事業所「ユーアイファクトリー」は、利用者がデザインした「Tシャツアート」など、障害者の芸術活動を通して社会との接点をつくっている。利用者自身の働きがい、生きがいにつながる活動は、SDGsの観点からも注目を集めている。

作品に囲まれながら机に向かってアート制作に励む利用者たち=水戸市吉沼町

事業所は、主に中度・重度の知的障害のある人が通所する生活介護施設。約10年前からアート活動に力を入れ始め、近年はTシャツアート展を定期的に開いて販売もするなど、地域に浸透している。
施設では、割り箸袋の製作などを請け負っている。納入先から一定の品質を求められる関係で、職員が利用者を注意する傾向があった。利用者、職員ともに制約される作業ばかりでは利用者らしさが損なわれると考え、利用者の個性を生かすアートに着目した。
障害者の手によるアートは、「アール・ブリュット(生の芸術)」などとして近年注目を浴びる。施設では、午前をアート活動の時間と位置付け、利用者が思い思いに机に向かう。道具と材料がそれぞれの机の周りに置かれ、独特の視点で伸び伸びと描いた動物や植物、幾何学模様などが抽象画のように画用紙を彩る。組みひも、刺し子といった工芸や、折り紙アートに集中する人もいる。
生活支援員の楠見達生さん(39)は「やってみたらすごくいいものができた。利用者が生
き生きしだして、施設の雰囲気が変わった」と語る。
割り箸袋に関しては、紙のデザインを考える人、紙を折る人、箸を入れる人、製品を運ぶ
人、と利用者の特性に応じて役割を分けた。アートを通じて活動の選択肢が増え、利用者らしさにスポットが当たるようになり、さまざまな障害者アート展で入賞者が出るようにもなった。

5月に施設で開いた「Tシャツアート展」

Tシャツアート展は2017年から隔年で開き、今年5月には5回目を実施した。「健常者と障害者の壁を低くする」をテーマに、利用定員40人のほぼ全員が参加。関連施設に70作品を展示すると、3日間で約500人の来場者があり、300着以上が売れた。
サービス管理責任者の中田真也さん(37)は、「作品の展示や販売を通して地域とつながっている」と話す。Tシャツの制作と販売も「ネイバーフッド(良き隣人)」をテーマとして、「作家」である利用者と地域住民との交流を生んでいる。
アートを通じて広がるコミュニケーションの輪。楠見さんは「素敵、面白い、かわいいとデザインを気に入ったTシャツを街で着てもらえれば、障害に対する壁が低くなる」と期待する。中田さんは「利用者も地域住民の一人。障害の有無に関係なく、地域の人たちが施設に足を運んでくれれば、交流の輪がどんどん広がっていく」と目を細めた。
今回、「いばらきSDGsプロジェクト特集」のフロント面を飾った作品は、利用者の「AYAKA」さんが描いたイラスト。象をイメージして描いたことから「エレファント」と名付けた。10年ほど前にイラストを始めた頃の初期の作品という。
施設ではこうしたデザインのほか、独自のフォント(書体)やパターンも作り、「ミトフォント」としてネットで公開、販売している。エコバッグにフォントをプリントした作品や割り箸袋のデザインなどに生かしている。